【テーマ】産業における安全の歴史

担当:工事部 目黒
実施日:2025年11月25日(火) ※11月度協議会

私たちが当たり前のように使っている 「安全第一」 という言葉。
実は、安全が“第一ではなかった” 時代があったことをご存じでしょうか。
ということは当然、「○○第二」「○○第三」も存在していたのです。

昔の「安全」は第何位だったのか。
そして、いつ・どんな背景から「第一」へと位置づけが変わったのか。
また、この先の将来はどうなっていくのか。

今月の安全協議会では、当時の時代背景とともに、安全に対する認識の変化をテーマに取り上げました。


1.黎明期(18世紀後半~)

※黎明期(れいめいき)とは、新しい時代、文化、技術、芸術などがまさに始まろうとする夜明けのような初期の段階を指す

■ 産業革命と危険な労働
18世紀後半の産業革命以降、工場制機械工業が急速に発展しましたが、
当初は労働者の安全よりも生産性が最優先されていました。まさに「生産第一」の時代です。

この時代に発生していた課題は、
・劣悪な労働環境と長時間労働
・児童労働の常態化
・頻発する労働災害 でした。


生産第一、品質第二、安全第三 という時代でした。

2.安全第一の誕生

■ 経営方針の大転換
1906年、アメリカの製鉄会社USスチールの社長、エルバート・H・ゲーリーは、多発する事故に対し、経営方針を抜本的に見直しました。
 

生産第一」だったものを「安全第一」に変え、生産は第三となりました。
この結果、労働災害は激減し、品質も生産性も向上しました。

3.日本への浸透と展開

●1911年(明治44年)~
日本では、劣悪な労働環境改善の第一歩として、「工場法」が制定されました。
これは、日本における産業安全法制の原点とも言えます。
「女工哀史」に代表されるような過酷な労働環境を改善するため、次のような最低限の基準が設けられました。

【最低基準】
・保護対象:女性および12歳未満(後に15歳)の年少者
・主な規制:1日12時間労働、深夜業の禁止(ただし例外規定あり)
・意義:「生産第一」から労働者保護への第一歩

●1912年(大正元年)~
安全第一」の考え方が日本に伝わり、スローガンが普及し、駅や工場には看板が掲げられるようになりました。

●1927年(昭和3年)~
民間運動が活性化されていきます。
「産業福利協会」の設立や全国安全週間の創設(1928年)など、官民一体となった運動が始まりました。

●1942年(昭和17年)
現在の「労働安全衛生総合研究所」の前身となる「産業安全研究所」が設立されていきます。

●1947年(昭和22年:戦後)~
■労働基準法の制定(1947年)
戦後の民主化に伴い、工場法を廃止し、全ての労働者を対象とした労働基準法が制定されました。
 • 安全衛生に関する規定を包含
 • 労働条件の最低基準を法的に保障

■労災保険法の制定(1947年)
労働基準法と同時に、労働者災害補償保険法も公布されました。
 • 業務上の災害に対する補償制度を確立
 • 使用者の責任を明確化

●1950年(昭和25年:高度経済成長期)~
1950年代から70年代にかけての高度経済成長期、産業の急速な発展に伴い、労働災害が激増しました。
労働基準法の規定だけでは対応しきれない状況となり、抜本的な対策が求められました。
 • 年間死亡者数は6,000人超(現在の約7-8倍)
 • 大規模建設工事や重化学工業での事故多発
 • 新たな化学物質による職業病の発生

●1972年(昭和47年)~
■労働安全衛生法の制定
労働災害防止対策を強力に推進するため、労働基準法から安全衛生部門が分離・独立しました。
これが現在の産業安全の要となっています。
 • 体制の強化 : 総括安全衛生管理者、産業医などの選任義務化
 • 未然防止: 機械や化学物質の規制強化
 • 快適職場: 作業環境測定の実施

■「事後」対応から「予防」へ
 •リスクアセスメント
  事故が起きてから対策を行う「事後対応型」から、潜在的な危険性や有害性を事前に特定・評価し、除去・低減する「予防型」への転換が進みました。
 •OSHMS (安全衛生マネジメント)
  PDCAサイクル(計画・実施・評価・改善)を回すことで、組織的かつ継続的に安全衛生水準を向上させる仕組み(ISO 45001等)の導入が推奨されています。

4.現代の課題

■フィジカルからメンタルへ
現代における課題は「心と働き方」です。
産業構造の変化により、身体的な安全だけでなく、精神的な健康(メンタルヘルス)が重要課題となっています。
 • ストレスチェック制度 : 2015年義務化
 • 過重労働対策 : 働き方改革関連法による残業規制
 • 多様な働き方 : テレワーク、高年齢労働者への対応

5.未来

単なる「災害ゼロ」を超えて、働く人全員が心身ともに健康で満たされる「Well-being」の実現に向かっていきます。

6.まとめ

• 産業安全は生産性優先から労働者保護へと変遷
• 労働安全衛生法の制定により予防型へと転換
• 身体的健康に加えメンタルヘルス対策が重要に
• 未来はWell-being実現を目指し安全衛生を推進(心身ともに健康で、かつ社会的に満たされた状態)

今回の安全協議会では、「安全第一」が当たり前になるまでの長い歴史と、その背景にある多くの教訓を改めて学びました。安全とは決められたルールを守ることだけでなく、時代や働き方の変化に合わせて進化させ続けるものです。過去に学び、今を怠らず、一人ひとりの意識の積み重ねで、これからの安全な現場をつくっていきましょう。

明日からもご安全に!



工事部:目黒